1997年第6回脂質栄養学会研究報告−DHAに関する投稿概要
APAN SOCIETY FOR
LIPID NUTRITION
●食餌性脂肪酸と大腸癌/ランズ賞受賞講演
秋田大学医療技術短期大学部 成沢富雄
高脂肪食が癌の発生を促進すると考えられ、それは欧米型癌の代表である大腸癌と乳癌で特に研究されてきた。脂肪の種類すなわち構成脂肪酸の違いが注目され、ω6脂肪酸は癌を促進、ω3脂肪酸は抑制するとする仮説が証明されてきた。ラットを使った実験ではω6/ω3比が5.0あるいは3.0によって大腸発癌を十分に抑制することを示唆している。過剰な脂肪の摂取を避けるとともに、ω3脂肪酸の摂取の増加に心がけるべきである。
●血管内皮細胞のプロスタサイクリン産生に及ぼすEPAおよびDHAの効果
東北大学大学院・薬・病態分子薬学 山崎研ほか
EPAおよびDHAによる抗血栓作用は、血管内皮細胞のPGI3の産生増加がその一因になるものと考えられる。
●母獣のアルコール飲用が出生仔に与える影響に対するDHAの修飾作用について
東海大学医学部・環境保健学・地域保健学 古屋博行ほか
母体が妊娠中にアルコールを飲用することにより、出生仔に学習・行動での中枢神経障害が認められている。一方、不飽和脂肪酸のDHAは学習能を向上させ情動を安定させる等の効果が報告されている。そこで妊娠ラットにアルコールと同時にDHAを投与し、出生仔の学習行動、自発行動、脳生化学について検証した。
●日本人の結腸がん死亡率と脂肪酸摂取の相関分析
国立健康・実践女子大・川崎医療福祉大 辻啓介ほか
日本人における結腸癌の増加は、脂肪摂取量の増大に伴って加速的に起こり結腸癌脂肪率に関与している。1952年から1995年の脂肪酸摂取量は飽和脂肪酸(S)が3.5倍、1価不飽和脂肪酸(M)が3.9倍、多価不飽和脂肪酸(P)が2.1倍に増加した。データの中で脂肪率ともっとも高い相関を示したのはP/S比率であった。
●抗癌剤誘発脱毛に対するDHAの抑制効果の選択性
岡山農大・相模中央研究所・ミュンヘン大学医学部 高畑京也ほか
細胞周期依存性の抗癌剤であるAraCおよびVP-16によって誘発された脱毛に対してはDHAの抑制効果が認められた。一方、細胞周期非依存性のエンドキサン誘発脱毛に対しては無効であった。このことより、DHAの作用発現には細胞周期の関与が示唆された。
●健康学童の脂肪酸組成からみた食事傾向
下関市立中央病院小児科 永田良隆
1996年4月〜8月に下関市健康学童9〜12才101名の血漿脂肪酸組成を検討した結果、n-3/n-6比が0.16±0.04であった。また、アトピー性皮膚炎の小児が0.18、同成人が0.18で今回の学童と同様の傾向であった。以上より、健康児の食生活は完全に欧米化してしまい、和食の原型を留めていない。この傾向はアトピー患者においても同様である。したがってアトピー患者だけが特別の食事をしているわけではなく、たまたまアレルギー体質傾向の強い人が発症しているに過ぎないことを示唆している。それ故にアトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患を減少させるには和食中心のn-3多価不飽和脂肪酸優位な食生活に戻す必要があることを強調したい。
●近視者の視力に及ぼすDHAパンの影響
小見川眼科・株式会社スゴウ・農林水産省食品総合研究所 高橋英敏ほか
視力低下で受診した4才から22才の27名を対象に300mgのDHAを含有するパンを一日一個摂取して2週間後、4週間後の視力測定をした結果、散瞳下の調節麻痺後の視力が改善したもの11名であった。そのうち両眼とも改善したもの7名で、無散瞳下でも視力改善したものは4名であった。
●DHA投与による脳内脂肪酸の組成変化と記憶学習に対する効果
島根医大第一生理・神戸大学医学部・ハリマ化成 蒲生修治ほか
DHAの記憶に対する作用の機構を解明するために、脳内の脂肪酸組成と過酸化脂質レベルを測定し迷路課題の成績との関連性について検討した。その結果、DHA投与群において優位な成績の向上とDHAの優位な蓄積が認められた。大脳皮質および海馬は記憶の形成に深く関与する部位である事はよく知られている。本研究では両部位でのDHAの増加が認められた事により、DHAはこれらの部位における記憶の形成に何らかの作用を持つと考えられた。またDHAの過酸化脂質レベルの違いからDHAは大脳皮質と海馬では異なる機構で作用している可能性が示唆された。
●未熟児・新生児におけるDHA値について
県立岐阜病院新生児科・岐阜大学小児科・岩佐マタニテイー 加藤智美ほか
近年、DHAの新生児・乳児の脳・網膜の発達や機能的役割に及ぼす影響に関する研究が盛んに行われるようになり、DHAの十養成が明らかになってきた。今回我々は未熟児・新生児のDHAの値の推移および乳児・学童のDHAの値について調査・検討を行った。その結果、出生体重別にみると生後2週間以内では1500g未満児は0.473(±0.165)、1500g以上2500g未満児は0.545(±0.158)、2500g以上児は0.648(±0.119)と出生体重が少ないほどDHA値が低値であった。DHA値が3.0以下の症例は生後2週間以内で2例みられ、1例は在胎30週・出生体重1417gの男児で脳室周囲白質軟化があり、もう1例は在胎32週・出生体重1946gの男児であった。ペルオキシソーム欠損症のZellweger
syndromeではDHAは低値をとり、DHAの神経系の発達に及ぼす影響も示唆されている。
●神経芽腫細胞(Neuro
2a)に対するDHAの影響
岡山大学農学部 国沢彰子ほか
近年魚油由来の高度不飽和脂肪酸であるDHAの神経機能活性化が注目されている。今回我々はマウス由来の神経芽腫細胞(Neuro
2a)を用いて神経分化へのDHAの影響およびその作用機序について検討した。その結果、
1)Neuro 2a細胞にDHAを処理すると神経突起形成が促進された。
2)DHAの神経突起形成には細胞内cAMP上昇やカルシウム−カルモジュリン系の活性化は関与していないことが示唆された。
●糖負荷試験(75g
oGTT)と血中カテコラミン濃度に対するDHAの効果
富山医科薬科大第一内科 澤崎茂樹ほか
精神的ストレス下にある医学生15名を2群に分けて糖負荷試験(75g
oGTT)と血中カテコラミン(epinephrine,
norepinephrine, dopamine)濃度に対するDHAの効果を調べた。その結果、精神的ストレス下においてDHA投与によりnorepinephrine濃度が服用前より優位に低下した。ストレスが関与するといわれる高血圧症や虚血性心疾患の治療に役立つ可能性がある。
●ω-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)の抗動脈硬化作用ー脂質過酸化物の役割
千葉市立病院内科 寺野隆
ω-3多価不飽和脂肪酸(PUFA)に抗動脈硬化作用のあることが知られる。その機序を血管平滑筋細胞増殖抑制面より検討し、PUFA由来過酸化物の産生もふまえて考察した。大量の過酸化脂質がcytotoxicに働く事は良く知られるがω-3多可不飽和脂肪酸より産生される少量の過酸化脂質が増殖抑制、COX活性化などを介して抗動脈硬化作用を発揮する可能性が示唆された。
●DHAと血栓形成−PITモデルを用いて−
浜松医大薬理学 中島光好ほか
フィッシュオイルは多くのEPAとDHAを含んでおり、血栓性心血管病変に有効であると報告されている。純度の高いDHAを用いてDHA負荷による血栓形成への影響を検討した。DHA負荷によりEx-vivoでの全血血小板凝集を抑制し、さらにトロンボキサン産生をよくせいしたことが、血栓形成の抑制に大きな役割をしていることが考えられたが、DHAは幕の流動性、受容体の親和性、イオンの透過性、細胞変形性、酵素活性などを亢進させ、さらに血小板粘着抑制作用といった多彩な硬化を持っており、DHAの抗血栓作用はこれらが複合的に関与していると思われる。
●U型糖尿病モデル(OLETF)ラットの耐糖能インスリン感受性に及ぼす食餌脂肪酸の影響
名古屋市立大学薬学部・お茶の水女子大学理学部 山下徹ほか
牛脂群、サフラワー油群に比べシソ油群で、牛脂群に比べ魚油群で優位にインスリン感受性が上昇していた。また血清中のコレステロール量は牛脂群、サフラワー油群に比べシソ油群、魚油群で優位に低かった。また、魚油群では他の食餌群に比べ精巣上体の脂肪体組織重量が優位に低かった。長期にわたるn-3系列食餌脂肪酸の摂取は・型糖尿病モデルラットのインスリン感受性を上げることがわかった。
●フリーラジカル(活性酸素)傷害における過酸化脂質の生理的役割
名古屋大学薬学部 奥山治美
「過酸化脂質をつくりやすいn-3系脂肪酸はとりすぎないように」という栄養指導は間違いであり、n-6/n-3比率を下げることによってフリーラジカル病は抑えられることが証明されている。リノール酸(n-6)の過剰摂取は細胞のアラキドン酸を増やし、それ由来のエイコサノイドをアンバランスに過剰に作らせる。これが虚血・炎症を促進する。一方n-3系列はリノール酸代謝を競合的に抑制し虚血・炎症を抑える。すなわち、体内では自動酸化能の不安定なn-6系列がフリーラジカル(活性酸素)傷害を促進し、空気中では不安定なn-3系列が抑制する。
リノール酸系→虚血、炎症→フリーラジカル→老化→ガン化、動脈硬化
また、同氏は脂肪酸バランスについて、n-6/n-3比の上昇にともなう欧米型ガンの死亡率、アレルギー患者数の急上昇している現状から、学会でも論議を重ね、内外の専門家の意見とともに、欧米型ガンなどの予防のためには、
1)脂質エネルギー比率を20%程度とする
2)リノール酸摂取量を大幅に減らすこと
3)若年層のn-3系列脂肪酸の摂取増を勧めること
の3点で意見が一致した。n-6/n-3比の推奨値は2で受け入れられた。国際学会(ISSFAL)前会長のLeaf教授は2〜1を推奨している。と発表しています。また、この中で植物油脂の有害性についても述べています。
|